たまにしか聞かれる事も無いが、"一番気に入っている生物種は何か"と問われれば、私の場合迷わず「イベックスホソクワガタ」と答える。しかし知名度は低く、どんな生物種なのか毎度説明を加える。
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分類学に興味を持つキッカケとなる生物種や、長く研究活動を続ける動機になる生物種というのが、興味を持つ人達になら"必ず"と言って良いほど当たり前にある。人によっては其れがイヌだったりネコだったり異なる。
私的には南米ブラジル南東部で局所的に棲息するイベックスホソクワガタ:Leptinopterus ibex (Billberg, 1820)がそうだった。
初心者だった頃、インターネットがあまり普及していなかった時代でも図鑑には大抵掲載があったのに、何故か実物の観察がままならず探しまわった覚えがある。
初めて実物を観る事が出来たのは、近場に在住の大コレクター氏所蔵の古い個体群、また分類屋の友人が所蔵する古い個体群だった。以降しばらくは他で観る事が叶わずだった。
実物個体群は、写真で観る図からは想像しづらい厚み、想像していたよりも艶を欠く質感に気付く。
(特異的な体色に黄金色の体毛がよく映える)
とはいえ、そんなに好評を集めるクワガタムシでもなかった。一緒になって話を盛り上げてくれるのは分類屋の友人くらいで、なんでかは知らないが大抵の人達はそんなに興味が無い様子だった。友人も実物の入手には苦労したのだと言っていたが。。
其れにしては関心を集めない違和感があった。小型種だから?色合いが地味だから?実物を観る事が滅多に無いから?格好良く美しく、物珍しい割に人気はない。 直感的な好みが分かれる事も、なかなか結構面白い現象だ。
此のあたりの世間一般的な審美が何なのか分からなかったが、しかし私には何か直感的に熱狂する動機を与えてくれた分類群だった。
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赤絨毯のような絹がかった質感で、大型♂は大顎がよく伸び、特異的な並びの内歯を備える。
今でも一番気に入っている生物種はLeptinopterus ibexで変わらない。美麗で格好良く、また手の届きにくいところにいるロマンス。
生体が輸入されて繁殖や売買が流行れば飽きるのだろうと予想される事も、またある意味では趣深い。
初めて実物を観た時、形だけでなく色合いや質感で似た雰囲気の別種が他に無い事に気付いた。「なんでこんな、他のクワガタが真似しそうにないような形に進んだのだろうか」と、ここまで興味を引いた生物種は他に無かった。
境遇が良くもなく悪くもなく平凡でもない。主要な図鑑にも頻繁に掲載があるのに殆ど誰も注目した話をしない不思議な認知をされる。"隠れた名作"のような。
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分類学的にはタイプ個体が再発見されていない問題がある。原記載の記述、また同属に近似別種がいない事で同定されてきた。
1820年の原記載スケッチからは、小型の♂個体を基に学名をつけられた事が解る。上翅や脚等に模様の描写は無い。「体毛は小楯板とフセツ下面にある」と説明がある。「背面は紫褐色、腹面は栗色」また「内歯は4つ(スケッチ有)」とあり、該当する生物集団も限定される。俯瞰図では顎先の湾曲が描写されていないが、記述説明では「顎先は湾曲する」とされる。
なるほど、此れしか無さそうだ。
(「 Billberg, G. J. 1820., Novae insectorum species descriptae. Mémoires De l’Académie Impériale Des Sciences De Saint Petersburg. St.Petersburg 7:381-395.」より引用)
博物館によっては、不完品の率が高いが古い個体群の結構な個体数を所蔵庫で見られた。西暦1800年〜1840年頃のものと推察される成果物が結構あった。ただし其の頃の成果物はいずれも詳細な採集データを欠く。
貿易のルートがいかほどにあったのか、詳しい情報もあまり残っていない。
当時の生物学や科学は殆ど何も分かっていない時代背景があったため、シノニムの種小名が乱立する事もあった。
(そういう時代の大型♂個体大顎)
1808年に半島戦争の勃発により、リスボンのポルトガル宮廷はナポレオン軍を逃れてリオに移転した。翌1809年、リオがポルトガル・ブラジル連合王国の首都となる。これによりリオは人口も増加し、また高い文化を持った移住者たちによって文化も進歩した。1821年には王の帰還と共に首都もリスボンに再遷都されたが、ポルトガルがブラジルの統治に軍を送り込んだためブラジル側の憤激を買い、独立派はリオに残っていた王太子ドン・ペドロを擁立して1822年にブラジル帝国の独立を宣言し、リオはブラジル帝国の首都となった。
1832年4月4日から7月5日まで、ダーウィンの乗ったイギリス海軍のビーグル号が寄港している。ここでダーウィンは奴隷に対する酷い仕打ちを目撃した。このときの深い嫌悪感を終生忘れることがなかった。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%87%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%82%A4%E3%83%AD
20世紀以降の個体は少ない。昔は普通種で、現在までに減少したのだろうか?分布域付近はかなり人界化していて生息域が残っている事が奇跡的にすら見える。
古い個体群は擦れて艶味の無い個体が殆どだが、新しく採集されたものは微かにホログラフィックな鈍い光沢が見られる個体もある。顕微鏡下で観る質感の美麗さには、思わずため息が出る。
リオデジャネイロとサンパウロで記録されるも、詳しい生息域は図鑑等書籍では示されておらず、インターネットの普及が始まった頃は原産国ブラジルの学者がオンラインページで「ティジュカの森林で12月頃観察される」と掲載したものだけが手掛かりだった。
(同産地からのiNaturalistの記録で久しぶりに生態写真を見た事が此の記事を書く動機になった。なんとも美しい。※ティジュカ国立公園は現在世界遺産に指定されてある)
私が実物を初めて手にしたのは、コルコバードの丘にある有名なキリスト像の足元付近で採集された1♀だった。
現地の人によると、比較的安全なキリスト像の足元は個体数が少な過ぎて見つからないそう。他にポイントが知られているが、滅多に誰もそこに行かない理由があって、だからあの辺りのクワガタムシを見る事もなかなか無い。
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イベックスホソクワガタは私にとって大きな原動力になってくれた。
割と実物を揃えた気分だが、未だ何か"追いついていない感覚"がある。「なんで近似別種がいないんだろう?」と、人間の技如きでは一生理解出来ないかもしれない生物進化の深みに嵌る。
【Reference】
Billberg, G. J. 1820., Novae insectorum species descriptae. Mémoires De l’Académie Impériale Des Sciences De Saint Petersburg. St.Petersburg 7:381-395.
【追記雑談】
「日本人はプレゼンテーションがヘタクソ」という話をこれまで結構見聞きした。
学会発表や論文等でも確かに日本人の発表はとっつきにくい感じがある。なんでかというと練習や実践経験が他に比べて圧倒的に足りていないから。
https://x.com/himasoraakane/status/1900821495162826859?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
SNSや商業系の人達がやるプレゼンテーションにしても、いつも何か"物足りなさ"を感じる。説得力の乏しさ、手抜き、騙しの下心。だから詐欺に引っかかる人達も結構いる。ディープフェイクや"情弱商売"なんて言葉が流行ってしまう所以。
https://x.com/dorami6415/status/1900324525033873859?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
プレゼンが上手い人達もいない事はないが、かなり少ない。
https://x.com/kentani_0222/status/1900885663693893741?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
プレゼンテーションというのはなかなか馬鹿に出来ないもので、話者の意図を如何に上手く"情報の受け手"が汲み取れるように伝えられるかにかかっている。だから一般的に思われているよりも結構難しい技術だったりする。
https://x.com/nekotaro_npk/status/1900471622320140772?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
例えば政治家達の活動を胡散臭いと考える人達も時代の流れとともに増えてきた。
https://x.com/kkkfff1234k/status/1899848544707903952?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
だから"日本人のプレゼンはヘタクソ"という説に共感する事もあるけど、しかし私的にはどうも此の話の対策法に長年違和感を持っている。其れを分かっていながら、何か全然違う道に行ってしまってはいないだろうか、なんて感じで。
https://x.com/satetu4401/status/1900696403468579006?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
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例えば昔よく比較に持ち出されたスティーブ・ジョブズ氏のプレゼンテーション、私はどうしても受け付けなかった。殆どが精神論で直感的に"つまらない"印象。しかし何故か持て囃された。
Apple製品は使用感が良いから売れたのであって、ジョブズ氏のプレゼンはむしろ"邪魔な感じの便乗"という印象だった。知名度にしても多数のユーザーが使用する事で勝手に広まっていたのに、人気が出てきた後からしゃしゃり出てきた、頭髪とヒゲの勢力が逆転した謎のオッサンという印象しかなかった。
Windows PCをこき下ろしながらMacintosh PCを宣伝する挑発的なコマーシャルが頻繁に流れていたが、使用感ゆえに私はWindowsを使っていた。
https://m.youtube.com/watch?v=cfh_O9izmhg&pp=ygUTZ2V0IGEgbWFjIOaXpeacrOiqntIHCQlRCQGHKiGM7w%3D%3D
実際、当時のMacintosh PCはWindows PCに比べれば使用感が悪かった。ソフトウェアの互換性、慣れ易さ、鬱陶しいアップデートの頻度の高さ。耐えたユーザーはデザイン用使用者だったりオシャレ感覚や成り行きで使用していた人達だけだった。
Windows PCも7以降のOSは使い勝手が悪化しているが、其れまでの使用感はアクセスに時間がかかり過ぎる事以外は良い使用感だった。
むしろApple社の製品でヒットを収めたのはiPhone、iPod、iPad以外に無い気がする(Apple watchって流行ってたのかな?)。
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言ってしまえば、商業系の人達が褒めるプレゼンは心を打たない。人間味を感じにくい。
https://x.com/348752a/status/1900828015577493830?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
YouTuber等動画配信者達のヤラセ、ソーシャルゲームの演出もそう。ドラマ演技の下位互換、芝居に劣る大根演技、そういう低評価をつけたくなる。脈絡の無いやり取りからは"人間味の無さ"が滲み出てくる。
話題性が途切れないようにするためなのか、中国等のソーシャルゲーム運営からは小出しで情報リークされて"公式ネタバレ"みたいなのもあるが、ああいうのは割と本気で要らない。"公式ネタバレ"はユーザーの熱を冷ます下策ではなかろうか。
他にも例えばネット上の右翼VS左翼の政治論争で左翼サイドには何故か「中道左派」を自称する人が滅多にいない。主張の薄っぺらさからも"左派論者"としての誇りを全く感じず、アレ等にも人間味を感じない。
https://x.com/rakukan_vortex/status/1900823715400872147?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
逆にヒトラーや毛沢東のような人達はプレゼンテーションが巧妙。ギラギラした強欲。
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世界的にヒットした作品として、宮崎駿氏のジブリアニメ映画シリーズは、私的には「もののけ姫」よりも後の作品は「風立ちぬ」以外あまり好きではないのだが、しかし例えば「千と千尋の神隠し」は印象的で含蓄深い作品と思う。
アリエッティ、マーニー、ハウル、ポニョ、かぐや姫の物語、色々観たが其方は普通の作品だった。特にわるくもなく和やかな良作。
一度観てから"得るものが何もなかった"と感じたのは宮崎吾朗氏による作品「ゲド戦記」。かなり不評だったが、アマチュアの同人作品レベルなら普通にあるクオリティ。不評になった原因は"ジブリアニメ映画"の看板を背負って世に出した事だろう。
"ゲド戦記"について、私的には「原作漫画版とアニメ映画版の"風の谷のナウシカ"を混ぜて劣化コピーしたような違和感」の印象ばかりに目移りして、ストーリー内容が頭に入ってこなかった。
https://x.com/andy_takasaki/status/1900736770087518538?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
映画であるのに"創作している感じがしない"、そういう問題点が目立ち過ぎた。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1366642713
宮崎駿氏による作品は、沢山の情報量の中から其れを感じないようになっているから本当に凄い。良い意味で"オリジナリティに対する拘りの強いオタク"による作品と考えた。
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ドラマやアニメが流行っていた頃はノスタルジーが必ずあった。ドキュメンタリー番組でもそうで、「生命40億年はるかな旅」は普及の名作と考えて良い。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm3061278
しかし時代が進むにつれてそういったノスタルジーを感じにくくなった。
漫画作品だと近年ヒットした「鬼滅の刃」は久しぶりに人間味を感じとれる作品で、だからヒットしたと考えた。登場キャラクター達というよりも、あの漫画を描いた作者の才能に畏れすら覚える。
アニメ作品が出来てから漫画がヒットしていた興味深い売れ方だった作品だが、確かにアニメよりも漫画の方が内容を読み易い。アニメ版がコマーシャルになって原作が売れた作品と考えられる。
しかし映画版については正直あまり好きになれない。いわゆる"感動ポルノ味"を押し付けられているような違和感が前面に出てきてしまっていると、話の本筋がボヤけて腰砕けになる。
他、エヴァンゲリオンシリーズやシン・ゴジラ等も好きな人達が結構いるから引け目を感じるが、どうしても心を打たれない。シナリオが随所飛躍的過ぎてついていけない感覚なんだろうか。
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ほか、平成以降は昭和の頃のアニメ作品に比べて描写の線が鮮明過ぎていて、何か近過ぎる距離感を感じてしまい、シナリオよりも絵柄の印象が勝ってしまっている。だから"平凡な静止画"にすらストーリー性で勝てない。
何と言えば良いのか、"窓は無いが窓越しに鑑賞しているような気分"が欲しくなる。
漫画版やテレビアニメ版「鬼滅の刃」は若干線が太い事で少し距離感があるから未だマシな感じ。和紙で作られた「モノノ怪」シリーズは線が薄くなっていて、距離感が上手く作られてある。
見せたいのはストーリーシナリオか、絵柄か、製作陣の名前か、優先順位でプレゼンの作風も評価も変わる。
https://x.com/52498b/status/1900791312384921745?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
玩物喪志
珍しいもの、風変わりなものをもてあそんで、本来の志を見失ってしまうこと。 また、無用のものに熱中して、仕事や学業などが疎おろそかになること。 「玩物」は、くだらないものをもてあそぶ。 「喪志」は、志を失う。
https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E7%8E%A9%E7%89%A9%E5%96%AA%E5%BF%97/